大阪地方裁判所 平成9年(わ)491号 判決 1997年9月22日
主文
被告人を懲役二年一〇月に処する。
未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。
押収してあるプラスチック様透明カプセル入り覚せい剤白色粉末(鑑定残量〇・五七五グラム)一個(平成九年押第四三二号の1の1)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は
第一 Aから、株式会社クレディセゾン発行のB名義のクレジットカードを使用して現金を作るよう依頼され、右クレジットカードを使用するに際し、その名義人になりすまし、かつ、その名義人が正当な手続による支払いをしないことを認識しながら、その加盟店から商品購入名下に商品を詐取しようと企て
一 平成八年一一月一六日午後八時五〇分ころ、大阪府守口市土居町四番一号株式会社バロン守口店において、同店店長Cに対し、同クレジットカードを呈示して、被告人が右クレジットカードの正当な利用権限を有する者のように装い、紳士服等の購入方を申し込み、同人をしてその旨誤信させ、よって即時同所において、同人からブルゾンなど合計九点(販売価格合計三一万二〇〇〇円相当)の交付を受け、もって、人を欺いて財物を交付させた、
二 同日午後九時一六分ころ、同市金下町一丁目九番一四号D経営の紳士服店「サムズ」店内において、右Dに対し、同クレジットカードを呈示して、前同様に装い、紳士服などの購入方を申し込み、同人をしてその旨誤信させ、よって、そのころ、同所において、同人からハーフコートなど五点(販売価格合計一二万八八〇〇円相当)の交付を受け、もって、人を欺いて財物を交付させた、
三 同月一七日午後六時四五分ころ、大阪市城東区今福東一丁目一〇番五号イズミヤ今福店二階ブティック「ジョイ」において、同店店長Eに対し、同クレジットカードを呈示して、前同様に装い、婦人服の購入方を申し込み、同人をしてその旨誤信させ、同人から婦人用コート一着、婦人用パンツスーツ一着(販売価格合計一二万七五〇〇円相当)を交付させようとしたが、同人らに事故カードであることを見破られ、警察に通報されて逮捕されたため、その目的を遂げなかった、
第二 法定の除外事由がないのに、同月三日ころ、大阪府守口市東郷通三丁目一四番一七号ホテル皇帝三〇五号室において、フェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤若干量を嚥下し、もって、覚せい剤を使用した、
第三 みだりに、同月八日午前一〇時三五分ころ、大阪市鶴見区諸口六丁目一番一号大阪府鶴見警察署駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する白色粉末〇・六四一グラム(平成九年押第四三二号の1の1はその鑑定残量。)を所持した。
(証拠の標目)<省略>
(当裁判所の判断)
弁護人は、判示第一の各事実について、外形的事実に争いがないが、被告人は、詐欺の故意に基づいて本件を実行したものではない、すなわち、被告人は、Aからカードで現金を作って欲しいと依頼されて本件カードを預かり、カードの所有者であるBの承諾を得ていると信じて使用したものであり、詐欺罪の故意を欠いていると主張する。
しかしながら、被告人がカード名義人であるBになりすまして、本件クレジットカードを使用したことは明白であり、被告人もこれを争わないところであるが、クレジットカードによる使用権限は、使用の際、名義人の署名を求めて名義人と使用者との同一性を判断しているものであって、そのカードの名義人以外は使用できない制度であることは、検察官の主張のとおりである。しかも本件は、右の事実に加えて、被告人の検察官(平成八年一一月二七日付、同月二七日付、平成九年二月二〇日付)及び司法巡査(平成八年一一月二〇日付、同年一二月四日付)に対する各供述調書、証人Aの当公判廷における供述によれば、Aから、カードを使って現金を作って欲しい、カード名義人がどんな方法でもよいから金を作って欲しいと言っている旨告げられ、本件クレジットカードを手に入れたことが認められ、その際、カード名義人は、金に困っていることから、カード会社からの請求に対しても、サインの筆跡が違うとか、盗まれたとか、紛失したと言って、カード会社の請求を逃れるつもりであったことも認識している。以上の各事実によれば、被告人は、名義人の名前を詐称しただけでなく、本来のカード名義人も、カード会社からの請求に応じないことを充分認識していたのであり、右のような認識の下で本件クレジットカードを使用した行為は、被告人が主張するように、カード名義人の承諾があったと認識していても、詐欺罪に該当することは明らかである。
よって、弁護人の主張は採用できない。
(累犯前科)
被告人は、昭和六二年一〇月二七日、大津地方裁判所において、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の各罪により、懲役八年に処せられ、平成七年五月九日右刑の執行を受け終わったものであり、右の事実は、検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。
(法令の適用)
被告人の判示第一の一及び二の各所為は、いずれも刑法二四六条一項に、判示第一の三の所為は、同法二五〇条、二四六条一項に、判示第二の所為は、覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条に、判示第三の所為は、同法四一条の二第一項に各該当するが、被告人には、前記の前科があるので、刑法五六条一項、五七条により、いずれも再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役二年一〇月に処し、同法二一条を適用して、未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入し、押収してあるプラスチック様透明カプセル入り覚せい剤白色粉末(鑑定残量〇・五七五グラム)一個(平成九年押第四三二号の1の1)は、判示第三の罪に係る覚せい剤で、犯人の所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文によりこれを没収することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中正人)